Jack HamillことSpace Dimension Controllerがシーンに名を知らしめたのは本人が19歳の時だったが、年齢よりも語るべきことが多い音楽であるため、その若さが取り沙汰されたことは一度もない。2009年にSpace Dimension Controller名義でリリースされた自身初の12インチ“Love Quandrand”は新人離れした素晴らしいメロディセンスと作曲能力の高さを世に示したが、当時流行していた音楽からは完全にかけ離れていたものだったことからR&Sに「次世代のアーティスト」と高く評価させることとなり、最終的にこのレーベルとの契約を勝ち取ることにも大きく貢献することになった。Hamillの生み出すダンスミュージックは、いたずら心を用いて「狙って」作られた作品であり、そのルーツはハウスよりも80年代のファンクにより多くを見出せる。

またHamillは物心がついた時から映画に興味を持っており、これが彼の音楽に独特のキャラクターを付け加えている。Hamillは自身のクリエイティビティに広がりを持たせるため、最初にストーリーやキャラクターを考えだし、その後でそれらに似合った音楽を制作するという。このスタイルは彼の全ての作品に通じているが、IDMからの影響が色濃く反映された11曲が収録されている2枚組『The Pathway To Tiraquon6』では、自身の生み出したSF作品に登場するMax Tiraquonが大胆にフィーチャーされている。尚、このSF的な方向性は今月初頭にリリースされたデビューアルバム『Welcome To Mikrosector-50』である種のピークを迎えており、Hamillの持つクリエイティビティが今までにない強度で解き放たれている。キャラクターMr. 8040 のタイムトラベルを中心としたストーリーが盛り込まれているこのアルバムはふざけた作品ではあるが、その中心には自分が何者で、また何を考えているのかを堂々と語る豪胆なアーティストとしてのHamillがしっかりと存在している。

このアルバムのコンセプトはどのように生み出されたのでしょうか？　以前から頭の中にあったアイディアなのでしょうか？　それともアルバムのためにイチから考え出したものなのでしょうか？

僕の制作方法について話すと、まず頭の中にアイディアがあって、それを元にトラックのタイトルを考えていくんだ。トラックは映画でいうところのチャプターのようなもので、それぞれにストーリーがある。その後でトラック同士をつなげ合わせて、順番を決めていくのさ。こういう制作方法はかなり面白いね。トラックの名前が書かれた紙だけを元にどんなアルバムを作っていくのかを見極めていくのは楽しいよ。どういう作品になっていくのかを簡単に理解することができるんだ。

Mikrosector-50のアイディアはどうやって形になっていったのでしょうか？

数年前に世界観みたいなマップを描いたんだ。どこにしまったのかさえ憶えていないんだけど、どんなイメージだったのかというのは覚えているよ。次のアルバムではもっとこのやり方を突き詰めていくつもりさ。次のアルバムの音楽性はもっと幅広くなると思う。80年代のファンクをこの先ずっとやり続けるつもりはないからね。今回のアルバムにはこのスタイルがふさわしかったっていうだけさ。今後はもっとテクノやエレクトロっぽいものをやりたいね。エレクトロファンクみたいなのじゃなくて、デトロイトのエレクトロみたいな音楽をね。

自分の中でこういうサウンドにしたいという具体的なイメージがあって、それを元にストーリーを作っていったのでしょうか？　それとも逆にストーリーがサウンドに影響を与えているのでしょうか？

今回のアルバムはストーリーからサウンドが生まれた。今回のストーリーはちょっと安っぽいというか、人によっては僕が本気でこう考えていると思っているみたいだね。何を言っているんだって感じだけど。

ストーリーを意識しながらアルバムをどうライブとして表現するかを考えるのは難しかったでしょうか？

ただプレイしたって感じだよ。音楽だけって感じだった。でも今は曲間のMCを増やしているんだ。

MC時のオーディエンスのリアクションはどのようなものだったのでしょう？

面白かったよ。みんな終わった後に僕のところへ来て、楽しかったとか、そこまでシリアスな内容じゃなくて、純粋に音楽をプレイしてくれたから良かったって言ってくれた。僕はもっとオーディエンスとコミュニケーションを取ってパーティーのバイブを生み出したいと思っているんだ。

オーディエンスがストーリーを把握している感じはあったでしょうか？

プレイ中はそこまでストーリーを意識していない。「僕は今この奇妙な惑星にいる」みたいな簡単な説明はするけれどね。ほんの少し話すだけだよ。ストーリーに踏み込むようなことはないね。

今回のアルバムの前に『Pathway to Tiraquon』をリリースしていますね。これはスタイルとしては大きく異なっていますが、ストーリー全体にはどのように関わっているのでしょうか？

あれは前編に相当する作品で、Mikrosector-50が発見される以前のストーリーなんだ。Mr. 8040が関わっていない時のストーリーさ。制作には少し苦しんだよ。シンセソロを弾きたいと思っても、このアルバムじゃダメだって時があったからね。

ということは、同一名義であっても、手法を作品ごとに細かく分けているということですか？

今後はSpace Dimension Controller名義をアルバムだけで使うことにしたんだ。アルバム間のリリースはSDC名義でやっていくことになると思う。本格的なストーリーを必要としない、もっとエクスペリメンタルな作品になると思うよ。しばらくの間は落ち着いて、音楽だけを作ることに集中したいんだ。

これまでは常に何かしらのイメージやストーリーを盛り込んでいたのでしょうか？

そうだね。Cloneからリリースした“Journey To The Core Of The Unknown Sphere”もフルコンセプトではなかったけれど、各トラックにちょっとしたストーリーが盛り込まれているんだ。

こういったあなたの制作方法、そして音楽そのものは何から影響を受けているのでしょうか？

分からないな。何から影響を受けたのかははっきりと言うことができないね。単純に子供の頃から映画を作りたかったから、これが自分なりの映画みたいなものなのかも。今でも映画は作りたいと思っているし、次のアルバムではアニメーションを作れたらなと思っているよ。アルバムとは何かしら繋がりがを持った本格的な作品に出来ればいいかな。別のサウンドトラックを用意してもいいね。

この先本格的に映画の道へ進む可能性はありますか？

是非そうしたいね。誰かとコネクションができればいいなと思っているけど、ちょっと無理かもな。まぁ、とにかく何かが起きてくれればなと思うよ。多分もう少し歳を重ねてからになるかな。

若い頃に本気で映画の道へ進もうとした時があったんだけど、音楽にのめり込んでしまった。映画は1人じゃ作れないしね。でも1人で作った経験はあるよ。母親のガレージに置いてある古いマックに映像が残っていると思う。登場するキャラクターを全て自分で演じたショートストーリーを沢山作った。その中に50分位の長さの作品があって、15人か16人のキャラクターが登場するんだけど、それも全部自分で演じたんだよ。

昔から想像力は豊かな方だったのでしょうか？

だと思うよ。いとこや兄弟もこんなことをやっていたんだ。多分僕が7歳位の頃かな。それで10歳とか11歳頃に自分1人でやり始めたんだ。でも16歳の時にやめた。

恥ずかしくなってきたということですね。

そうなんだ。本当に馬鹿げたものもあったからさ。

アルバムの話に戻りますが、自分がリスナーの求めるものとは違うものを求めていると感じる時はありましたか？

ダンスミュージックのアルバムを買ったら、好きなトラックをそこからピックアップするだけみたいな人が沢山いるけれど、とにかくそれは避けたかった。アルバム全体を通して聴かない人もいるけれど、このアルバムは通して聴く必要がある。まぁ、iTunesで個別にトラックを買っている人もいると思うけれどね。その姿を想像すると死にたくなるね！

このアルバムを「楽しい」というよりも「シリアスな意思表示」として捉える人がいることは気になりますか？

僕は何か意思表示をしようとして音楽を制作しているわけじゃない。ただ僕が良いと思えるもの、僕が作りたかったものを作っているだけだし、「楽しい」部分も好きだから、盛り込みたいと思っている。確かに音楽制作に対してシリアスに取り組んではいるけれど、それは制作に全力を尽くしたいからさ。

今回のアルバムは自分のルーツを素直に辿ったアルバムとして捉えていますか？　フロアはそこまで意識しなかったのではないでしょうか？

このアルバムで色々試していたのは、僕が80年代から影響を受けた部分さ。次のアルバムはというか、この先のテーマはアルバムごとにそこから10年ずつ進めていくようにするかもね。まだ分からないけれど、何となくそう考えているんだ。

制作時はフロアを意識していますか？

いや、意識していないね。フロアを意識した作品はアルバムとアルバムの間にリリースしていくと思う。この先はもう少しフロアを意識していくと思うけれど、ナイーブで純粋な部分も大切にしていきたいと思う自分もいる。ここ数年は色んな場所でDJをしてきたし、人を踊らせるのに向いているトラックを色々ピックアップしてセットを組んできたから、それが少なからず自分の音楽に影響を与えているんだ。そういう影響は凄く嫌なんだけどね。

R&Sとあなたの関係は、あなたの様々な側面を自由に表現できるようなものになっていますか？

そうだね。そういうことについてはレーベル側と最初から話し合っているんだ。僕は『Temporary Thrillz』をリリースするより前からこういうプランを考えていたし、これが僕のやりたいことだから、彼らも納得してくれたよ。良く分からないけれど、彼らは僕のことを他の人の考えを無視する人物だって思っているみたいで、そこが気に入られているんだと思う。

「最初のトラックは2006年の大晦日に作った。
丁度童貞を捨てた後だったよ」

R&Sとの関係はいつどのようにスタートしたのでしょうか？

2009年の終わりか2010年頭にPsycatronがシングルをR&Sからリリースした際に、Paul（Hamill。Psycatronのメンバー）がR&SのDanに僕のメールアドレスを教えたのがきっかけだね。それでDanが僕に連絡してきたから、僕はいくつかトラックを送ったんだけど、古いトラックだったし、何の返事もなかった。でも“The Love Quadrant”がリリースされた後、彼が曲を気に入って電話をかけてきたというか、その電話で起こされたんだ。電話越しに「James Blake、Pariah、それに君を加えた3人にR&Sの次世代を担うアーティストになって欲しい」って言われたよ。僕はまだ寝ぼけていたけれど、「ああ、わかったよ」って答えたんだ。

“The Love Quadrant”の何年前から音楽の制作をスタートさせていたのですか？

最初に制作したのは2006年の大晦日だね。16歳の時さ。童貞を捨てた直後にこのトラックを作って、あとは大晦日のパーティーに繰り出して酔っ払った。

音楽を始めたきっかけは？

僕は登校拒否児だったんだ。だから本当はダメなんだけど、15歳で学校を辞めちゃったんだよね。GCSE（中学卒業証明に相当）も取れていないし、1年半くらい家の中に閉じこもって『World of Warcraft』をやりこんでいたよ。

いわゆる不良だったということですか？

というより、映画が大好きだってことが分かっていたから、必要なのはチャンスで、学校の勉強なんて必要ないって思っていたんだ。学校にはそういう映画に関係する勉強なんて何もなかったから、必要性を感じなくなって、学校へ行くのが嫌になった。その後に父親が住んでいるオハイオへ移って、心機一転高校へ通うことにしたけれどね。

でも結局そこでの生活も上手く行かなかった。当時は色々ドラマチックな出来事が身の回りに起きたんだけど、丁度Aphex TwinやBrian Eno、Boards of Canadaなんかを沢山聴いていた頃だった。それでこういう音楽を聴いていた自分とドラマチックな出来事が重なって、自分でも音楽を作りたいって思うようになったんだ。

学校へ行かなくなったことが音楽に費やす時間を増加させ、結果的に今の成功を生み出したと言えますね。

当時はバカみたいに『World Of Warcraft』をやりこんでいたんだけど、そのやり込みに近いような形で音楽制作に熱中したよ。コンピューターの前に17時間位座っていたから、ReasonやAbletonを凄いスピードで扱えるようになったんだ。

あなたは実は別名義でアンビエントのアルバムもリリースしていますよね？

ああ、RL/VL名義だね。実はRAでもレビューされて良い評価をもらったよ。

それは知りませんでした。

2009年にレビューされたんだ。アルバムのタイトルは『Chagrin』で、オーストラリアのレーベルからリリースしたから、僕もオーストラリア人だって紹介されていたけれどね。4/5の評価だったから悪くなかったと思う。父親が住んでいた場所の近くにChagrin Fallsって名前の街があって、タイトルはそこから付けた。オハイオから帰ってきてしばらくしてから制作したんだ。子供の頃の思い出を懐かしむノスタルジックな感じで、少しBoards Of Canadaっぽいかな。アナログっぽいアンビエントだよ。

10代の若者がアンビエントを制作するのは珍しいですよね。

『World Of Warcraft』で遊ぶ代わりに友達とクラブに行っていたら、もっとダンスフロア寄りの作品を作っていたかもしれないな。

そういう遊びはしなかったのですか？

単純に興味がなかったんだ。アンビエントやAphex Twinみたいな音楽に興味があったし、クラブに行ってひたすら4/4のビートを聴いているのが嫌だったんだよ。

ではどういう経緯でダンスミュージックを制作するようになったのでしょう？

DrexciyaとかJuan Atkins、Derrick Mayみたいな音楽に出会ったからだと思う。あとはAphex Twinの中にもAnalordシリーズみたいな少しダンス寄りの作品があったしね。こういう良い音楽に出会ったことがきっかけかな。個人的に「良い」って意味だけどね。

DJをするようになった経緯について教えてください。

自分の中でDJに対する意識が高まっただけだと思うよ。僕はまず制作からキャリアをスタートさせたわけだけれど、その中でDJをする必要が生まれてきたって感じだね。ギャランティーが発生するから、プレイする必要に迫られたというか、DJを学ばなければならなかった。僕のプレイはちゃんと学んだものじゃないという人もいるだろうし、地元のベルファストではいつも最低のプレイをしているなと自分で思う時もある。凄く変な気持ちというか…　みんなに嫌われているように感じる時があるんだ。

DJに対してどう取り組んでいますか？

基本的には自分の好きなトラックをプレイするだけだよ。それが原因でオーディエンスを不愉快にさせる時もあるね。別に意図的に不愉快にさせるプレイをしているわけじゃないけれど、ずっと同じ感じでプレイしていると飽きちゃうから、切り替えるんだよ。そういう大胆なプレイができないギグだということがあらかじめ分かっている時はハウスとテクノだけをプレイするけれど、そうじゃなくてもう少し遊びがあっても大丈夫だなと思える時は、80年代のトラックをプレイしたりするね。

Panorama Barでは1曲目にPhil Collinsの“In The Air Tonight”をプレイしたそうですね。

あの時は上手くいったよ。みんなライターに火を点けて、一緒に歌ったんだ。素晴らしい瞬間だったね。このトラックは何回かプレイしているんだ。プレイした後ネット上にその情報が流れて、みんなに知られた後はプレイしていないけれどね。自分のセットの中の定番みたいな形にしたくなかったから。

「Phil Collinsをプレイする奴」みたいに思われるのが嫌だと。

そうなんだ。1曲目にこの曲をプレイして、あとはセットの中盤に“Sussudio”をプレイする時もあったよ。楽しかったね。

あなたはDJをする時に「この曲をプレイするぞ」というような、ある種の自信を持ってプレイするタイプでしょうか？

自信かどうかはわからないな。単純に「このトラックをプレイしたい」って思うんだよ。面白い話なんだけど、僕がハウスとテクノだけをプレイすると、オーディエンスは全員楽しんでくれるみたいだけれど、実は僕はそこまで楽しんでいないんだ。もっと色々なトラックをプレイしたいからね。ただ、ハウスとテクノのセットをプレイした時は、オーディエンスが変なトラックで邪魔されることなく楽しい時間を過ごせたことが分かるから、凄く良い気分になれる。逆に80年代のトラックを数曲プレイするようなセットの時は、瞬間的には凄く楽しいけれど、20分後には「ああ、なんてことをしちゃったんだ！」なんて思うんだ。去年のDimensionsはブレずに同じ感じでプレイしたから、ベストのセットになった。即興でプレイするのではなくて、ある程度頭で考えてプレイしたんだけど、凄くいい気分になれたよ。

変わったトラックをプレイして失敗に終わったことはありますか？

あるよ。去年ブリストルに行った時だね。ベルファストでギグがあったJackmasterと一緒にブリストルの同じフェスティバルに向かったんだ。JackmasterはNumbersの連中と一緒のステージで、僕はMarcellus Pittmanなんかと一緒のステージだった。僕はMarcellusのセットに合うようなハウスっぽいセットをずっとプレイしたんだけど、最後にBaltimoreの“Tarzan Boy”をプレイしたんだよね。というのは、Jackmasterとお互いセットの最後にこのトラックをプレイしようって示し合わせていたからなんだ。でもオーディエンスの女の子が「最悪！　最悪よ！　ここまで凄く良かったのに何で最後にこのトラックをかけるのよ！」って叫ばれてさ。「ゴメン」って謝って、レコードをストップして逃げ帰った。　

その後Jackmasterのプレイしている所へ行って、彼が最後にこのトラックをプレイしたのを聴いたけれど、彼もかなり痛い感じになっていた。2人とも気分は最悪だったよ。