RRRKRTAは、まるでランニングのコーチが選手を鍛えるようなやり方で自身のレーベルを運営している。専門以外のスポーツを練習させ、選手の全体的なパフォーマンスを向上させるクロストレーニングのような手法を重視しているのだ。クロストレーニングを行なうランナーは、例えば水泳や自転車を練習することで、ジョギング中にはあまり使われない筋肉の筋力や柔軟性を高めていく。RRRKRTAの場合もまたそれと同様で、ダンスというジャンルに存在する音楽的なコンフォートゾーンを超えるために、クラブよりもノイズのライブショーに行っている友人たちに依頼することで、彼らが持っているジャンル外からの視点を取り入れようとしているのだ。そのトレーニングの結果が、彼がポーランド・ワルシャワでオーガナイズしているパーティーの延長線上から生まれたレーベル、Brutażからリリースしている、風変わりで情緒的なテクノである。

Brutażの最新リリース作品である、ワルシャワのミュージシャンWiktor Milczarekによる3曲入りの12インチは、このレーベルがどういうレーベルなのかを説明するにはうってつけの作品だ。MilczarekはRRRKRTAの親しい友人で、Brutażの設立当初から現在に至るまで継続的に関わり続けている。MilczarekがSouvenir De TangerやDyktandoという名義で発表している作品は、テクノやハウスというよりも、実験的な電子音楽やノイズからの強い影響を感じさせるものだ。収録曲の中でも特に機能性の高い”Flecik”や”Skc-Qx60”は、ヴァイブ、テクスチャー、楽器の編成をグルーヴに昇華するようなトラックだが、それでも同様の影響が感じられる。彼が使っているソフトなキックドラムは、すすり泣くような音、アシッドなげっぷのような音、金切り音などのより際立った音と並ぶ中では、トラックを支える背骨としての役割というより、メトロノームに近い印象である。

「これまでリリースしてきたどのレコードにも、とても感情的な背景があるところが気に入っている」と、RRRKRTAはワルシャワの自宅から語りかけてきた。「自分がやってることは、ほぼ友情そのものだ。レコードは、アーティストと僕との友情の延長にあるもので、僕が彼らに対して抱いている感情、そして、彼ら自身の感情が表現されている。いわば、僕は自分の知人をレコードに置き換えているんだ。そうすることで、他の人もそのレコードをプレイできる」

これまでBrutażで楽曲を発表しているアーティスト5名は、その全員がRRRKRTAとの個人的なつながりからレーベルに関わるようになった。その大半は、彼が2012年後半ごろ、KeloとPiotr Kurekからパーティーのオーガナイズを引き継いだ頃からの付き合いだという。RRRKRTAが引き継ぐ前は、当時ワルシャワ芸術大学の地下にあったEufemiaというバーで定期開催されていた実験的電子音楽のイベントだった。「レーベルをやろうと考えたことはなくて、今になってようやく、僕だけがそう考えはじめたところだ」とRRRKRTAは言った。

Brutaz

レーベルを始めたことで、パーティーにも新たなスタイルとスケール感がもたらされた。RRRKRTAはすでにブッキングの方向性をテクノに変えていたが、レーベル始動後はポーランドのあちこちの街でもパーティーを開くようになった。唯一、ドイツ・ベルリンのOHMで行われたレーベルのローンチパーティーは例外として、レーベルのアーティストをイベントでのパフォーマンスにブッキングしたパーティーは、ポーランド中で注目を集めるようになった。

もちろん、こうした注目は好意的なものだけとは限らない。2016年のRed Bull Music AcademyでBrutażがフィーチャーされた際、RRRKRTAは「（Brutażの）パーティーに行き、あれこれ見てきたと発言することがお洒落だと捉えられるようになれば、そのパーティーを嫌いだと発言することもお洒落になる」と、私に打ち明けてくれた。しかし、それから2年が経ち、今回の記事のためにまた話す機会を得たわけだが、彼は「君がKulturalnaでやったパーティーに来てくれた時と比べて、自分達はずいぶん変わったんだ」と、当時彼らが拠点としていた興味深くも風変わりなカフェの名前を出しつつ、念を押してきた。Kulturalnaとは、共産主義時代にワルシャワに建てられた”文化科学宮殿”なる建物のロビーにあるカフェである。彼らはその後、新たに建てられたPogłosという音楽・文化センターに拠点を移し、クラクフにあるクラブSzpitalna 1でもサテライトイベントを行ったり、ポーランドのあちこちの街で単発イベントを開催するようになった。

パーティーとレーベルが連携することで、ダンスミュージックに普通とは違う見解をもたらそうと願うミュージシャン達をつなぐハブとしての機能を持っている。Brutażの中核となっているクルーには、Milczarek、PsishコレクティブのメンバーのAnia R、ポーランドのフェミニストDJコレクティブOramicsとも関わりのあるVTSSがいる。

「自分と一緒に仕事をしてる人たちは、本当に感情が豊かで、才能があり、賢い人が多い。だけど、他所でプレイしようとは考えていない」とRRRKRTAは続ける。「DJをやったり音楽を作ることにそこまで貪欲ではないけど、でもいざやってみると、こだわりも強く、とても知的にやってのける。僕はそういう人たちをやる気にさせようとしていて、単刀直入にいえば、ダンスミュージックに”誘惑”するんだ」

そうした人物の代表例とも言えるのがJules Venturiniだ。彼とRRRKRTAは、最近また復活したベルリンのヴァイナルリテーラーThe Record Loftで働いていた頃に出会った。2人は共に「90年代の珍妙でチープなダンスミュージック」を愛好していたことで意気投合し、店内に彼ら2人しかいない時には、Venturiniが自分で作った曲を聴かせるようになった。「彼が聴かせてくれたのは3曲だけだったが、その3曲をレーベルでリリースした」と、RRRKRTAは当時を思い出しながら、そのリリース「No Reference」EPのことを語った。同EPの曲はエレクトロが眠たげなハウスビートに出会ったようなトラックで、そこにVenturiniらしい繊細に歪みをきかせたストリングが滑らかに入っては揺れ動く楽曲だ。

RRRKRTAによると、Venturiniの音楽には「Jules本人の性分でもある、本当に深い個人的なメランコリーが反映されている。彼自身は物静かで落ち着いた人だから、彼がこんなに純真に、オープンで気さくな感じの音楽を作れる事が衝撃的だった。日頃はそんな面はまず見せないからね」

Bartosz ZaskórskiがMchy i porosty名義で発表した小気味よいエクスペリメンタルテクノが収録された12インチ『Brutaż-03』の背景にも、Venturiniの場合と同様、ストーリーがある。RRRKRTAの話によると、Bartosz Zaskórskiはポーランド国内の人口800人の村に住んでいるDIYノイズミュージシャンで、ある種の不安障害により、ごく薄手のパン（平鍋）で複雑なリズムを作り上げることに執着するようになった。RRRKRTAは「彼はダンスミュージックをプレイしたり、ダンスミュージックについて考えたことすら全くなかったが、そういう珍しい事情でビート主体の音楽を作るようになった」と説明する。もしBrutażからの熱烈なスカウトがなければ、Zaskórskiは自分自身、そして自分の芸術に対する自信を持ち得なかっただろう。「レコードをリリースして以来、彼は以前よりも自信に満ちた様子になったよ」とRRRKRTAは語る。

『Brutaż-02』を創り上げたアメリカのプロデューサーMatt Dravengもまた、Record Loft時代の同僚である。Venturiniの音楽は柔らかで瞑想的だが、Dravengの音楽は遊び心たっぷりで茶目っ気があり、呑気な雰囲気である。「彼は自分の音楽で、ある意味、お調子者みたいに振舞ってるんだ」とRRKRTKAは言う。「だから曲を送ってくるときも、まるでミーム（訳者註：インターネットで話題になっている物事。流行り言葉、画像、映像など）を送ってくるような感じなんだ。そういうところが僕にもしっくりきた。第一弾のレコードはディープですごくシリアスなものだったから、ちょうどそれとは反対の作品になると思った」。DravengがBrutażで発表したこの無題の作品は、薄汚れたテクノをごしごしと洗い上げたような音と、原子核電子工学のアンビエントな沼とを横断するような作品だ。一番キャッチーなトラック"Xeroxer”では、強打するような音、キーキーした音、歪んだテクノドラムが錯綜する混沌とした戦場に「Fuh-fuh-fuh-fuck the system!」という怒鳴り声のヴォーカルが繰り返す。「一種のジョークのつもりで作った曲なのに、あとから、かなり機能的なジョークだというのがわかったんだ」とRRKRTKAは言った。

まるで”若者の主張”のようなDravengの楽曲は、皮肉とおふざけの積み重なりの中で煮詰められたものと思われるが、同時にBrutażの政治的な面を表したものでもある。RRRKRTAと関係者達は、奇抜な、もしくは時に難解な音楽をブッキングすることで、ワルシャワのクラバー達が自身のパーティー／レーベルを通じて「ダンスパーティー」というものに対するイメージの幅を広げられるように狙っている。Brutażは、Discwoman、Siren、Room 4 Resistanceなど、社会運動団体であることを公表しているDJ／プロモータークルーとも、ワークショップやクラブイベントでコラボレーションしたことがあるが、それと同時に、ディープリスニングセッション、タロットカード占い、お見合いパーティーなど、政治色のない活動もパーティーに多数取り入れている。Brutażの見解を主張するにあたり、思想的なイベントは報道を通して十分に注目を集めるものだ。RRRKRTAは、外国の音楽系メディアでは彼自身がやろうとしていること以上に、思想面が取り上げられがちだと感じているようだ。

「そういう”素敵”な政治的PRに寄って来るのが西側のジャーナリスト達だ」と、彼は私に言った。

Brutażを政治活動色の強いダンスミュージックコレクティブの一つとして数えたり、また、RRRKRTAの仕事をプロモーター兼レーベルオーナーだと説明するのは、完全に正確な表現だとは言い難い。Brutażには4つの目標がある。1つ目は「レコードを通したマジカルな体験を作り出し」、そして「あわせて、ワルシャワのクィアコミュニティのために活動する」こと。　2つ目は、「テクノとして売り出されていないダークな音楽をプレイする」こと。3つ目は、クラブでの嫌がらせ行為を積極的に声を挙げて辞めさせ「代わりに愛を持ち込む」こと。そして最後は、「切ないストーリー性がありながらも、機能的な」レコードをリリースすること。

「熱心なダンサー達、自己嫌悪が強く家族と疎遠で暮らしている若者、自己嫌悪的なポーランドの人々の暮らしを改善するために頑張っている人たち、そして、DJやプロデューサー。自分の周囲にいる、そうした人たちが活躍できるエレクトロニックミュージック業界を作っていきたいと思っている」とRRRKRTAは語る。「そのためにも、ポーランドではまだ完備されていないインフラ作りが重要なんだ」

彼が言いたいのは、道路、病院、公立学校といった国の基本的なインフラの話ではなく、エレクトロニックミュージックのカルチャー自体や、それに関連するプレス工場やクラブなどの施設作りに、政府や経済がいかに影響してくるのかについてだ。彼は、ポーランドでは、ダンスミュージックのレコードが西側ヨーロッパや北米と比べると遅い90年代の終わり頃に現れ始め、アンダーグラウンドなダンスミュージックのためのちゃんとしたヴェニューがいまだに無いことを指摘した。

「ポーランドの民主主義はまだ日が浅い上、（エレクトロニックミュージックの）マーケットの雰囲気は、インターネットが作り出した皮肉めいた雰囲気にすっかり染まってしまっている。この状況では何を作り出すのも一層難しい」と彼は言う。「僕たちは、インフラ不足と急激な発展という2つの潮流の間で翻弄されている。うんざりする程の不確かさと憂鬱さが全体を覆っている」

彼は、この政治的状況は、Brutażが音楽ビジネスで成功するために乗り越えなければいけない一連のチャレンジだと語る。作戦は2つの階層で行われる。第一には、エレクトロニックミュージックのための適切なヴェニューの不足、人々がカルチャーに対して持つ偏見、保守的な政府といった、ポーランドをとりまく状況。第二に、実際には世界中のアンダーグラウンドダンスミュージックの”シーン”に存在する、ほぼ人と人とのつながりだけで構成され、社交に終始することになる状況だ。クラブに長く滞在してコネクションを作り、トラックを作り、リリースし、メディア露出用のミックスを作り、ギグの機会を得る。もしくは、パーティーを始め、関連するレーベルをローンチし、宣伝を行い、ギグの機会を得る、そんな有様のことだ。

人当たりが良くて一生懸命なRRRKRTAの雰囲気は、誰かと争うような意思を感じさせないもので、彼が気をもんでいる、自分だけが梯子の上にどんどん登っていこうとするような心の持ち様とは相反するものだ。彼は有名DJになりたがるようなタイプの人ではないが、たとえ純粋な動機を持った謙虚な人であっても、成功したいと願うのであれば、何かしらゲーム（競争）に参加しなければいけないものなのだ。

「そもそも僕の周りにいるのは、そういう梯子を登る気はないタイプの人たちだけど、僕のほうからも皆にあえてそう振る舞うように勧めている」と彼は説明する。「僕も梯子を登っていきたいという気持ちがないわけじゃないけど、そう思うと同時に、そういうことをするのは何というか、すごく…」彼は英語のフレーズを探すために一瞬止まり、そしてまた口を開いて言った。「すごく馬鹿馬鹿しいよ」

「それでうまくいくかどうかは分からないけど、僕は自分の方法でやっていこうと思う。何故かって、僕ら自身がゲームだからだ」彼は続ける。「誰かが立てたどの梯子も登る必要はない、自分たちの梯子を作る。自分自身でもチャンスや定義を作ることはできる」

誰しも、本業があったり、ある種の後援者の存在をなしにしては、こうした金銭的見返りのないプロジェクトにこれほどの時間やエネルギー、資金を費やすことはできないだろう。特にポーランドでは尚更だ。この何かと不便な現実こそがRRRKRTAという存在の本当の姿だ。

「もっと大勢の人々と一緒に活動できる場所やインフラを確立するには、やり遂げなければいけない事が沢山ある」と彼は語る。「だけど、自分だけで全部やれるとは思ってない。毎月の自分の家賃の支払いだって、どうにかやり繰りしてる状況だ。皆から送られてきた楽曲のリンクは全部聴いてるし、もし会いたいという人がいれば誰にでも会おうと思っている。時間があるときは全てのメールに返事している。でも、パーティーの時だって、自分で流せる汗の量には限界があるよ」

妥協のない方程式は、かなり理屈に合わない計算過程へとつながるが、その結果は理想主義的であるゆえにロマンチックなものとなる。どうすれば、政治運動に関わり、その副産物である一体感や有効性をPRという祭壇に捧げる犠牲にはせず、自分の芸術を高めるものにすることができるだろう？芸術への誠実さを失うことなく、自分の芸術からお金を生み出すにはどうしたら良いだろう？こうした疑問はほとんど使い古されたものに聞こえるが、RRRKRTAや彼の周辺のアーティストにとっては、依然として有効な問いかけであり、答えの見つかっていない疑問である。彼らこそが全てのキーではないだろうか。

「もし僕たちが成功し、もっと上のポジションに行くことができたら、ポーランドの一体感あるシーンを保ち続けるために尽力する。一貫性のある美学を作り出し、人生を変えるような体験のできる場だって作りたい。だけど今のところは、まだそこまで達してない」。彼にとって、今の状況によってやってきた機会は、悲観的なものではなく非常に希望に溢れたものである。「いくらインフラが不足していても、僕らのテイストとダンスしやすさがどこまで通用するのかを試すことで、その不足を埋めていこうと思う」と彼は言った。

Label of the month mix

ミックスのオープニングを飾るのはBrutażのリリース第一作目。RRRKRTAがレーベルのアーティスト全員の曲が含まれたミックスを創り上げた。

Tracklist /
Jules Venturini - Nothing Ever Changes (Brutaż)
Leo Anibaldi - Muta 8 (ACV)
Brain Unltd. - Body - Mind (Toxikk Trakks)
Wiktor Milczarek - Lipowa Góra (Brutaż)
ајс дог - Biti ovde (Brutaż)
Carlo Maria - Mirage (Brutaż)
Draveng - Hang Eleven (Brutaż)
Yamaoka-Ya - Monstak (Sideburn)
Mantra - Hash Fields (Rise)
Starfish Pool - Mountain Land (Nova Zembla)
Timeblind - Tubz (Black Nation)
Freddie Fresh & Tim Taylor - 5 Mouths (Sounds)
Gluon Quarks ‎– Analyst Debunk (Protoplasm)
Matt Mitchell - Reakt (Do Something)
Draveng - Xeroxer (Brutaż)
Heinrich Tillack - Dark Track (U-Trax)
Mchy i Porosty - Czarna Plaża (Brutaż)
The Future Sound of London - We Have Explosive (Virgin)
Kode IV - Dissolve (Vapour Space Mix) (KK Records)
LA Williams - Pulled Hamstring (Phase 23) (Relief)
The Sabres Of Paradise - Lick Wid Nit Wit (Elastic Dreams)
ајс дог - U glavi leti ptica belim repom meduze (Brutaż)
We Will Fail - Schadenfreude (Refined Productions)
Wiktor Milczarek - Wśród ślepych jednooki jest królem (Brutaż)